45歳で海外起業に挑戦 in 台湾 no:2
出会い
私たちの市場調査というのは、自分が見て綺麗だなと思う服の値段はいくらか、どんな服が台北で流行っているのか、簡単にいえばこれだけだ。
とはいえ店それぞれにはその店の好み、強み、味などがあり、たくさんの店を見て回って私が掴んだイメージは極めて曖昧だったと思う。
そのあやふやな物を頼りに日本へ行き、店を一軒一軒回って服を選び、現金で買い取る。もし売れなかったらという恐怖心から、どうしても安い服を手に取ってしまう。
全部が全部安物ではなく、とはいえ高い服には手を出せず、中級品も多少はあった。自分の甘さから少しは期待を持って台北に持ち帰るのだが、やはり客に見向きもされなくて安売りせざるを得ず、ひどく後悔するのだった。
そんなことがどれくらい続いただろう。ある日女房が一軒のブティックを見つけたので見に行こうという。店主にも自分たちが店を始めたばかりであること、日本人の主人を連れてくるので見学させて欲しいことをすでに正直に話したらしい。場所は四平街で松江路という大通りから一本はいった路地にあった。
店の前に立ちショーウインドーを眺めながら「これだ!」と思った。ガラス窓の向こうに高級感と親しみやすさとセンスのほどよいバランスにあふれた物たちがいた。頑張れば自分でも到達できると思える具体的目標を見つけた瞬間だった。
小上がりの店内は真四角の4畳半ほどの広さで、真ん中にこれまた真四角のテーブルがあり、ガラスをとおして下に畳んで置かれた服が見えるようになっていた。決して広くはない店内を見まわしながら「私もこんな店にしたい。この店を欲しい」とさえ思った。
店奥のカウンターの向こう側に座った店主に女房が私を日本人であるとだけ紹介したのだが私は何と答えたかは覚えていない。彼女は私たちよりは一回り上ぐらいの年齢で綺麗で品があり、その上私なんか怖くて近づけないぐらいもっとずっと高級なブティックのほうがぴったりの風格があった。
それなのに彼女の選ぶ服や小物、飾りつけやレイアウトには少女のようなかわいらしさがあった。だからこそ気が小さくプライドが高い私でも彼女に近づくことができたのだと思う。高級ブティックのママさん然とした人だったら彼女との付き合いは続かなかっただろうと思う。